頭の中もエコーで見れる!? 経頭蓋エコーってどんな検査?
はじめまして!
臨床検査技師の森居あんみと申します。
普段は大学病院でエコー検査に従事しています。
と、自己紹介をすると
腹部や心臓をバリバリみているのを想像される方が多いのですが…
私が毎日見ているのは頸動脈、そして脳動脈!
つまり頭頚部の血管エコーを専門としています。
今回は、検査技師はおろか医師からも
「どうやって見るの!?」と驚かれることも多い頭部のエコー…
経頭蓋エコー検査 (TC-CFI:transcranial color flow imaging)、または(TCD:transcranial color doppler)について書かせて頂きます。
1、一体どうやって見るの?
頭蓋骨にがっちり覆われた頭部。
皆さんまず、どこからどう見るのかが気になるのではないでしょうか?
まずはプローブですが、これは心エコーと同じセクタプローブを使います!
ただし分厚い頭蓋骨を透過する際に超音波がかなり減衰するため、2.0MHz~2.5MHzに設定して行います。(プリセットでTCCFIやTCDという設定のある機種もある)
これを耳介前方にある側頭骨ウィンドウにあてることで、B-modeで中脳・蝶形骨・対側の側頭骨などを描出できます。
ここでカラードプラ法を用いることにより、中大脳動脈(MCA)・後大脳動脈(PCA)・内頚動脈末端部(ICA-TOP)・前大脳動脈(ACA)起始部などの血流を見ることができます(fig1)
また、後頭部の首の付け根から大後頭孔ウィンドウをとおして椎骨動脈(VA)・脳底動脈(BA)の血流を描出することも可能です(fig.2)。
この2つのウィンドウはセクタプローブで観察しますが、実は周波数の高いリニアプローブで観察する部位もあります!
それは眼窩ウィンドウ(fig.3)。
瞼の上からプローブをあてることで眼動脈(OA)の血流を観察可能です(ただし組織損傷リスクを避けるため、必ずTI<1.0, MI<0.23で行います)。
2、それが何の役に立つの?
さて、脳動脈の血流が見られることは分かりましたが…一体何の役に立つのでしょうか?
結論を先に言うと、脳卒中の診断に対して非常に有用です。
経頭蓋エコー検査では基本的にカラードプラで血流が見えるだけで、頸動脈のようにプラークや狭窄を見ることはできません。
ですが、流速を計測することにより狭窄を見つけることや、波形から閉塞を推測することが可能です。
また血流方向がはっきりと分かるため、逆流の診断にも役立ちます。
具体例を以下に幾つかあげます。
●脳梗塞やTIA(一過性脳虚血発作)時の脳血管精査
内頚動脈系・椎骨脳底動脈系の狭窄・閉塞・逆流を客観的に評価する。
●MES(micro embolic signal)の評価
連続的にプローブを当て続けることで、脳血管内に微小血栓到達の有無や程度を評価する。
●クモ膜下出血後のspasm(脳血管攣縮)の評価
術後2週間はspasmを起こす可能性が高いと言われている。血流速度を評価することで、その予知や経過観察に役立てる。
このように、様々な形で脳卒中診断に寄与しています。
3、経頭蓋エコーのメリットとデメリット
撮影は一瞬だけど被曝があるCT、多くの撮影法で全身を見られるけど金属には弱いMRI…どんな検査にもメリットとデメリットがあります。
もちろん、エコーにも…。
というわけで、経頭蓋エコーのメリットとデメリットをここに挙げます。
メリット
いつものエコー診断装置とセクタプローブさえあれば実施可能!
規模の小さなクリニックでも病室に出張しても、問題なく撮影可能です。
放射線を使用していないので、当然被曝しません。
プローブを当てるだけの手軽さゆえ、必要とあらば毎日でも行えます。
(実際、くも膜下出血後の患者さん等は、spasm期の間ほぼ毎日脳血流を観察しています)。
椎骨動脈や外頸動脈などではしばしば逆流が見られます。
流れの方向が分かるのはエコー検査の代表的な強みです。
デメリット
これもエコー検査全体に言えることですね。習得にそれなりの時間もかかります。
実を言うと…アジア人の場合、高齢女性でMCAの検出率が下がってしまうのです…。
自験例において、男性のMCA描出率は年代に関係なく80%~90%ありますが、女性は50台を超える頃から徐々に低下し70代では描出率は30%ほど…TC-CFI最大の弱点です。
ただし大後頭孔ウィンドウからの観察は年代や性別に影響を受けることはなく、VAであれば約90%描出可能です。
4、まずはやってみよう!
さて、前述のようなデメリット故か、日本ではなかなか普及しない経頭蓋エコーですが、実は欧米では脳卒中診断時の基本的な検査の一つです。
描出不良例があるとしても脳卒中が疑われる症例であるならば、
頸動脈エコーと共に実施する価値はあると思うのです。
手軽に試せるのは、エコーの魅力の一つ!
特に脳神経内科や脳神経外科を標榜している病院・クリニックに勤務されている方には、
ぜひ挑戦して頂きたいです!
専門学校を卒業後、病院・クリニック・巡回健診などを掛け持ちしながら転々とする。
超音波検査に出会ったことで一念発起、大学病院に就職。脳神経超音波検査士として現在も就業中の1児の母。
現在はライター・ブロガーとしても活動している。